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札幌高等裁判所 昭和47年(う)74号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年六月に処する。

原審における未決勾留日数中六拾日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小笠原六郎提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対しつぎのように判断する。

論旨は、原判決の量刑が不当であるというのである。

所論に対する判断に先だち、まず職権をもつて調査するに、原判決は、判文上明らかなように原判示認定の「罪となるべき事実」に対する「証拠の標目」欄には、判示全事実に対応するものとして、被告人の原審公判廷における供述、被告人の司法巡査、司法警察員および検察官(うち一通は謄本)に対する各供述調書を掲げるほか、原審公判調書中の検察官証拠調請求書記載の各証拠と同一であるからこれをここに引用するとして、右請求書証拠番号のみを記載している。

しかしながら、冒頭手続の行われた原審第一回公判調書によると、本件が簡易公判手続によつて審判されたものでないことは明らかであるから、公判調書中の証拠の引用を認めている刑事訴訟規則二一八条の二は原判決書に適用する余地がなく、その証拠説明の方法としては刑事訴訟法三三五条一項にいう「証拠の標目」を示してこれなすべきであることはいうまでもない。そこで、原判決書のような公判調書に記載された証拠番号による証拠の特定が、同法条の定める「証拠の標目」を示したものと解しうるか否かについてであるが、たしかに右の如き引用の方法によつても、判文と記録とを照らし合せて見る限り、証拠の特定に欠けるところがないとみる余地もないではなく、また簡易公判手続の場合に引用を認める前記刑事訴訟規則は単に明文でその旨を明確にした規定に過ぎないと解することも不可能ではない。しかし、簡易公判手続につき特に規則で引用による方法を定めたということは、逆に解すれば、かかる規定の存しない通常手続においてはこれを認めない趣旨と解することもでき、しかも、通常手続と簡易公判手続とを比較してみた場合、証拠能力の範囲や証拠調の方法等につき大幅な差異のあること、現行刑事訴訟法三三五条は、旧刑事訴訟法三六〇条が証拠説明の方法として証拠により犯罪事実を認めた理由の説明を要求していたのに対し、「証拠の標目」の挙示で足りるとしてこれを緩和しているが、未だ調書の引用を許ところまで簡易化しているものとは認め難いことなどの点を勘案すれば、通常手続においては右引用による方法を許さないものとみるのが法の趣旨に合致すると解せられる。

してみると、原判決書の「証拠の標目」欄記載のうち、原審公判調書に記載された証拠番号のみを引用し記載してある部分は、刑事訴訟法三三五条一項にいう「証拠の標目」を示したものということができず、結局、原判決が認定した犯罪事実の証拠説明として適法に挙示されている証拠は、被告人の原審公判廷における供述と被告人の司法巡査、司法警察員及び検察官(うち一通は謄本)に対する各供述調書だけということになり、しかも右各証拠の内容はいずれも被告人の自白である。

従つて、原判決は、刑事訴訟法三一九条二項に違反し、特段の補強証拠を拳示、援用することなく、自白のみによつて原判決記載の犯罪事実を認定した違法があることに帰着し、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反というべきであるから、原判決はまずこの点において破棄を免れない。よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当審においてただちにつぎのとおり自判する。

(罪となるべき事実)〈略〉

(証拠の標目)〈略〉

(法令の適用)〈略〉

(中西孝 神田鉱三 宮嶋英世)

〈犯罪一覧表略〉

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